ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

高知4コマまんが大賞の旅(12月18日〜19日)

前日は1年以上ぶりの職場全体の飲み会だった。あのような場はなんとなく居心地が悪くて、何をしゃべっていいのやら、いつも一向見当がつかない。僕は早々に酔っ払ってしまおうと開幕直後、空腹の状態でビールを入れまくった。結果、何をしゃべったのか、どうやって帰ったのか、ほとんど覚えていない。忘年会の席はくじで決めることになったのだが、何の因果か、隣に座ることになったのは高校時代同級生だったゴリラみたいな体育科の教員だった。彼は子どもが3人ほどいるのだが、僕に今年子どもができたことについてどうなのかと序盤にたずねられて「子どもができて、これで死ねると思った」と答えたところ、「それ逆ちゃうのん!?」と大層ビックリされたことだけは覚えている。生き方が逆だと考え方も逆になるらしい。いや、それも逆か。考え方が逆だから生き方も逆になるのか。
あとは、僕の前に座った英語のおばちゃん先生の眉毛の形が普通の眉の形とは反対に眉尻に向かって跳ね上がっていて、変な形の眉毛だなと、そのことばかり覚えている。

そんなだから朝は9時ごろ起きたと思うのだが、二日酔い全開でポンコツそのものだった。いつも二日酔いの時は体力ゲージがマイナスの状態から始まるような心持ちがする。春ちゃん(息子10カ月)の面倒も見れたのかどうか、朝ごはんは僕が食べさせたような気もするが、そうであってほしいというただの願望かもしれない。風呂に入ったのは間違いなく、春ちゃんの出発の準備は嫁さんにほとんどおまかせになってしまって、11時頃家を出た。

高知まで車で300kmの旅である。高速でガソリンを入れると高くつくだろうと思ったので近所のセルフスタンドでガソリンを満タンにする。少し割引が効いて、それでも1リットル159円だった。高えよ。
我々大人は朝飯を食べずに出た。高速に乗る前にセブンイレブンでサンドイッチを二つと飲み物を買った。嫁さんからはタピオカミルクティーをオーダーされたが、もうタピオカブームは去ってしまったのか、セブンイレブンにそのオーパーツは置いてなかった。2年経たずして過去の遺物と成り果てたのか。前回は10年ぐらい前にタピオカブームがあった気がする。また10年後きっとブームが来るんだろう。そして何事も無かったようにどの街からも静かに消えていくのだ。
とまれタピオカが置いてないので仕方なくホットのカフェラテを二つ頼むことにした。そのセブンイレブンにはコーヒー用のマシンが二つ置いてあって一つはコーヒー専用マシン、もう一つはカフェラテもコーヒーも入れられるマシン。ポンコツだった僕は二つのマシンに同時にカップを置き、コーヒー専用マシンに「ホットコーヒー」と表示が出ているにも関わらず抽出のボタンを押した。押してしまってから何と馬鹿なことをしたのかと愕然とした。どうやらセブンイレブンのコーヒー専用マシンはカフェラテのカップでもホットコーヒーだと認識するようだ。サンドイッチは鷄とブロッコリーの茶色いパンのものと、海老カツを買った。車で待つ嫁さんにカフェラテだと思って間違えてコーヒーを渡したところ(このあたりも実にポンコツである)「これコーヒーやで」と不思議な顔をして返された。きっと彼女もなぜ薄茶色のカップなのにホットコーヒーが入っているのだろうと疑問に思ったに違いない。それでも僕はポンコツであることを隠したい一心でそれについては何も言わず、自分の持つカフェラテと本来カフェラテであったはずのコーヒーをさも当然かのように交換した。

奈良から高速に乗って大阪、神戸と何のトラブルもなく進んでいく。特に眠気もない。春ちゃんの次のご飯は13時か13時半で、淡路島のSAを過ぎた時点で13時前だった。嫁さんも春ちゃんも後部座席で眠っていて僕はまだ元気だったのでもう少し行ってしまおうと淡路島のSAはパスした。淡路島を縦断中嫁さんが起きたので徳島まで渡ってからどこかパーキングに入るつもりだと伝える。鳴門海峡にSAがあったと思っていたがアテは外れ(淡路側にある施設に自転車で行ったことがあるが、一般道からしか入れないのかな)、徳島に入って最初のパーキングは自販機と便所しかなくて、結局徳島道に入って上板SAで2時過ぎに春ちゃんのご飯と我々のご飯を食べることになった。上板SAはガラガラで、こじんまりしてる割に電子レンジがあったり、おむつを変える小部屋があったりと、赤ちゃん連れにはなかなかアツい施設だった。かえってここで良かったかもしれないなと思いながら僕は徳島ラーメンを、嫁さんはすだちの練り込まれた緑の中華麺をダシで炊いたうどん?を食べた。この前から嫁さんはSAで変なものばかり食べている気がする。

f:id:yoakenoandon:20211231082059j:plain
徳島で運転を代わってもらった。

上板SAで運転を代わってもらって、嫁さんに100km弱走ってもらった。途中、雪がちらつき始める。愛媛から高知に抜ける山の途中で再び運転を交代したが、少し外に出ただけで身が縮み上がるほど寒かった。高知の市街地に入ったのは日没の少し前だったと思う。セルフのレギュラーガソリンの値段が173円となっていてめちゃくちゃびっくりした。奈良より10円以上高い。宿泊予定のクレメントイン高知は高知駅のすぐ脇、わかりやすいところにあって、駐車場もホテルに併設される形で駐車場の3階からは高知駅の列車の発着の様子がよく見えた。春ちゃん用品を買い物カゴになんでも詰めてホテルに17時過ぎにチェックイン。カゴを持って歩くのはあまり格好いいものではないけれど(特にホテルに入るのには)、買い物カゴはすごく便利だと今年気づいた。買い物をする時だけでなく、出かけるとき「とりあえず」何かを持って出なければならない時、とんでもなく重宝する。コロナの効用というやつか。
クレメントイン高知の中は、できたてのホテルなのか何もかも新しかった。18時に春ちゃんにご飯を食べさせて、我々の夜ご飯はひろめ市場で取ることにした。
高知駅にはもう10年以上も前に来たきりで、記憶も薄れてしまっているが、駅周辺はずいぶん変わっているように感じた。前来た時は駅も平屋で線路も地上を走っていた気がするし、駅周辺も何もなくてただ乱雑にヤシが生えているだけといった印象だった。今は二階建てか三階建ての立派な駅舎になって、駅周りはコンクリで綺麗に整備され、乱雑なヤシは見当たらなくなり、夜の高知に武市、坂本、中岡の三志士の像が浮かび上がっていた。志士像も以前にはなかったように思う。像の前で記念撮影をして南を向いて歩いていく。

f:id:yoakenoandon:20211231082250j:plain
春ちゃんと僕と三志士。

途中アンパンマンのかわいい像を見つけたので一応そこでも写真を撮った。が、僕は実はやなせたかし氏があまり好きではない。それは兄貴の家にあったやなせたかし氏の本を読んだ時に、岡本太郎氏に感じたのと同質の芸術家特有の強いアク(あるいは「悪」)を感じたからだった。とにかく頑固で無遠慮で、傲慢が見え隠れするような、そんな印象を受けたのだった。そのような人でなければ子どもをシャブ漬けといっていいほどに夢中にさせる作品も作れはしまい。幸い春ちゃんアンパンマンにまだ漬かってはいない。ちなみに僕は岡本太郎氏は嫌いではない。本も持っている。本の中で語る言葉も好きだ。多分扱っているものが違うから同じようなことを言っていても印象が違うのだと思う。

高知駅から20分ほど歩いたろうか。ひろめ市場に到着した。背後には高知城が控えているはずだが真っ暗で何も見えはしなかった。ひろめ市場も10年以上ぶりでこんなだったかな、と思いながら中に入ると人が山盛りいた。「コロナ…?それ何でしたっけ?」と言わんばかりの熱気である。熱い、人の量感からくる熱の波動を感じる。その波動はリズムを打っていて、一瞬にして熱狂のカーニバルに参加したようになってしまった。おかしい。こんなはずではなかった。想像ではひろめ市場は閑散としていて薄暗いオープンスペースで親子3人細々と酒を飲み、「こんなにゆっくりするのも久しぶりやなあ」とかなんとか、しっぽり大阪弁ちょいがましのほろ酔いで帰るつもりだったのに、想像から540度回転した現況はどうだ。そもそもなんだここは。空いてる席がないじゃないか。何も閑散としていない。どこにも我々の座れる席がない。しかも座っている面々はどうだ。全員高知人じゃないか。観光客など影すら見当たらぬ。あちこちにばら撒かれた机と椅子で高知人が高知弁ぶちかましのガン酔いで揃いも揃ってバキバキにキマッてしもとるやないか。我々は(嫁さんも同じ心境だったと思われる)一瞬にして雰囲気に呑まれてしまった。ここはよそ者が入っていい場所なのだろうか。ここはベビーカーを押し、赤子を連れて入っていい場所なのだろうか。僕は夜ご飯の場所としてひろめ市場を選んだのはとんでもない失敗だったと後悔した。旅行が楽しいと思える条件は一つしかない。メシが美味しく楽しいことだ。それさえクリアできればあとはどんなんだろうが旅行は楽しいのだ。そんなことをグルグル考えながら闇市のようなひろめ市場をグルグル回って席を探す。そう、ここは闇市闇市という言葉が実にしっくりくるほどに暗く、乱雑で、酒を夢見る人間が這いつくばってうごめいている。恐ろしい場所だ。そういえば以前ここに来た時は昼間だった。その時はこんなではなかったのに。夜はこんな顔になるのか。あるいはそれはコロナが明けた解放感であったかもしれない。ひろめ市場にいるどの人の顔も明るく、楽しそうで、皆一様に酔っていた。

ひろめ市場に入って奥(南側?)をグルグル回って空いてる席がなく、北側に戻って再び席を探してそれでもやっぱり満席だったのを確認した僕は夜ご飯の違う案を考え始めた。そうした場合一からプランを考えなくてはならず、まず間違いなく最悪な展開になるだろうことは火を見るより明らかだった。と、その時目の前の家族が席を立ち退くそぶりを見せた。僕と嫁さんはテコでも動かぬ意志で岩のようにその家族の背後に立ち尽くし、その家族の席を離れるのを見届けて無事席につくことができた。大人数の家族だったので、向こう隣の4人席と僕らの座った4人席の左側2席に大学生っぽい男の子たちが相席で座ることになった。多分大学生は5人で、僕らと相席になった1人はずっと向こう隣の4人と話していた。本来6席のところを4席にしているので机は広々使うことができた。

さて、ここからが問題である。椅子と机は確保できたが、ひろめ市場は普通のレストランではなく、とんでもない数と種類の店が混在しているイートインスペース、と言った方がイメージが近いので、どこかでお酒と食べ物を購入して来なければならない。その時僕が春ちゃんを抱っこしていたのでまずは小手調べに嫁さんが食料を調達してくることになった。嫁さんもひろめ市場には来たことがあると言っていたが、ものすごく久しぶりの、しかも夜のひろめ市場ではその「作法」が分からず、きっと緊張したに違いない。戦場から帰ってきた嫁さんの持っていたものは日本酒の2合ビン1本とお猪口二つだけだった。それでも僕はよくやったと、さすがだとほめ讃えたかった。一等初めに風穴を開けるのが一番難しいのだ。勢いさえつけばあとはどうとでもなるのだ。我々はその嫁さんの調達してくれた日本酒で雑踏の闇市の中、静かに乾杯した。

f:id:yoakenoandon:20211231084649j:plain
開戦。

その日本酒はちょうど僕から見て右手にある、ちょうどよく汚れた店から調達してきたもので、その店は数あるひろめ市場のお店のなかでも抜群の輝きを放っていた。汚れ方もいいし、何より注文を受けている店の兄ちゃんがロン毛なのが素晴らしい。ちょうどよく汚れた店に食欲をそそられるのは、完璧な顔より少し崩れた顔に色気を感じるのと同じなのかもしれない。アルコールを少し胃袋に沈めて、気持ちに火をつけたところで今度は僕が春ちゃんを抱っこしたままご飯を調達することになった。ロン毛の兄ちゃんから少し距離を取ったところでどうしたものかとメニュー表をにらみつけ、それから注文に並んだ(人気店なのかたくさん人が並んでいた)。注文したものはカツオの藁焼き(塩)、あおさの丸揚げ、焼き鳥のズリ、そして生ビールオリンピックサイズ(大より少し小さいがお得感のあるサイズ)。ロン毛の兄ちゃんは愛想がないわけではなく、かといって余計なことをしゃべるわけでなく、実に淡々と注文を受けてくれて接客業のお手本のような動きをしていた。席はどこですかとたずねられたので「あのベビーカーの置いてあるところです」と答え、席に戻った。ふと、席が離れている場合どうするのだろう、と思ったがそんな瑣末なことを考えるのは野暮だと思えるほどに場の空気はアバウトだった。

やがて、船に乗ったカツオの藁焼きとズリとあおさがやってきた。塩の振られたカツオ藁焼きは生ニンニクの薄切りとともに食べる。一体どのような発見の過程があったかわからないが、この食べ方を考え出した人間は天才だ。表彰したくなる。カツオ、ニンニク、それぞれがそれぞれをカバーし合い、それでいてお互いの魅力を削ることもなく、独立して生き生きとしている。カツオ、ニンニクの組み合わせは世紀の発見と呼んで差し支えなかろう。さらにカツオが素晴らしい。スーパーで買うものとは全然違う。ズリもいい。あおさは油まみれの油の味しかしなかったが、それもいい。カツオが上手ければあとはなんだってかまわないのだ。

f:id:yoakenoandon:20220101142956j:plain
激ヤバの食い物。

嫁さんのテンションも一気に上がって実に1年半ぶりに相当量のお酒を飲んでいた。それでもしんどくならずに気分は盛り上がるばかりで「お酒ってそういえば楽しいものやったなあ」との嫁さんの言葉を聞けた時、僕もとても嬉しくなった。春ちゃんができて以来、ずっと家で僕一人飲んで、適当に酔って適当に寝て、いつの間にかそれに慣れて、酒なんてこんなもんだろうと思っていてけど、僕は何を分かったつもりになっていたのだろう。嫁さんと二人で飲む酒はこんなに楽しかったのだと、1年半前に味わっていた気持ちを僕も思い出した。嫁さんも近頃は「お酒飲まなくても全然いけるわ」みたいなことを言っていて、もう二人で酒飲んで楽しくなることもないのかなと、とても寂しくて人生の大きな楽しみが一つ削られてしまった気持ちになっていたので、この日は本当に嬉しかった。

途中、大学生っぽい5人組が帰り(彼らはずっと競艇の話をしてた)、我々の席の隣には高知弁を話すかわいい女子二人組が座ることになった。酒を飲み、美味しいカツオを食べ、お互いに楽しいを連発しながら僕も嫁さんも耳ではその高知弁に聞き入って、やはり方言とは良いものだとヒソヒソ話した。特に僕の耳に残っているのは「これかわいいろー?」の一言だ。なんだその言葉は。良い、良すぎる。その言葉がむしろかわいい。もっと色々しゃべってくれ。
その後酔って良い気分になっていた我々は春ちゃんをエサに少しだけその女子二人と話す機会を得た。が、そうなると向こうは敬語で話をしてしまい、自由闊達な方言がスポイルされてしまった。おしゃべり自体は楽しかったが、少しもったいないことをした。
ふとひろめ市場内を見渡すと、老若男女問わず実に色んなグループが入り乱れていて、案外僕らのように即席でできているグループも多いのではないかと思った。出会いを求めてここに来るような人もいるのではなかろうか。少なくとも僕が大学生ならそういう使い方をしそうなものだが。それにしてもこのように若い女性二人が、このように薄暗くて乱雑で、きっと絶対間違いなく朝10時から閉店まで飲み続けているであろうおっさんが一人や二人必ずいるような闇市で平然とお酒を楽しむなんて。ここは楽園のような国だ。倫理のタガが外れている。

時系列が前後するが、盛り上がった我々は第二陣の食糧調達に向かうことにした。再び僕がロン毛の兄ちゃんのもとへ行き、生ビールと、酒の二合ビンとキュウリに生ニンニクを和えたものを頼んできた。もう一品何かツマミを頼んだ気もするのだが、覚えてないし写真も残っていない。キュウリはバカうまで、高知はとにかくニンニクの国なのだと、ニンニク大正義国家高知なのだと、認識を新たにした。続いて第三陣、今度は嫁さんが食糧調達に向かい枝豆とカンパチの刺身を買ってきた。素晴らしい。ちょうど僕はその二つが食べたかったのだ。第三陣で王道を持ってくるあたり、そのチョイスに海原雄山のニオイを感じた。酒が途中で切れたのでもう一本僕がロン毛の兄ちゃんのところで2合ビンと生ビールを買い、それで閉店時間(午後10時)がやってきた。ひろめ市場がこんなに素晴らしい施設だとは思っておらず、ひろめ市場のおかげで実に久しぶりに旅行の楽しさを思い出すことができた。次に高知に来た時には是非朝10時から閉店までひろめ市場で飲み続けることにしよう。

f:id:yoakenoandon:20220101143606j:plain
これもキケンなほどおいしかった。

翌朝ホテルで起きると、僕は割に元気で、今度は逆に嫁さんがグロッキーポンコツ状態(二日酔い)に陥っていた。朝ごはん付きのプランをお願いしていたので、一階の食堂に向かい、僕がカツオの藁焼き定食を(どんだけ好きやねん)、嫁さんが刺身定食を頼んだ。春ちゃんを抱っこしながら朝ごはんを食べさせ、僕もバクバクとカツオにニンニクを口の中に放り込んでいたが、目の前にいる嫁さんの箸が進まない。二日酔いもあるのだろうけど、それ以上に胃が気持ち悪いと言っていて、原因は間違いなく昨晩の生ニンニク過剰摂取であろうと思われた。その嫁さんの目の前には、何事もなかったかのように生ニンニクを胃に沈め続ける夫。その夫の姿に余計に気持ち悪くなってしまったのか一時離席するなどの混乱があったが、嫁さんも何とか朝ごはんを全て食べきって、しかし体調がかなりきつそうだったのでチェックアウトの11時まで少しホテルで休んで行くことにした。ワイドなショーを見たり、春ちゃんと遊んだり抱っこしたりして11時を迎え、嫁さんはそれほど眠れなかったようでまだ少ししんどそうだったが、とにもかくにもこの旅のメインイベント、横山隆一記念漫画館に向かうことにした。

そういえばこの旅の目的を書いていなかった。先日応募した横山隆一記念まんが館主催の4コマまんが大賞にて、僕の作品が一次審査を通過し、受賞は逃したものの僕の作品を展示してくれるとの案内を頂いたので、せっかくだからと高知まで観に行くことにしたのだった。

ホテルから車で行ってもよかったが、嫁さんも少し歩いた方が気分が良くなるだろうと思って歩いて横山隆一記念まんが館まで行くことにした。途中小さな商店街を通り抜けるとやたらいい匂いがしていて、お昼前からこじんまりした居酒屋の前でおでんが炊かれていた。ここに住まう皆々様は一体どれだけ飲むことに真剣なのかと畏怖の念をすら感じた。その商店街を抜けた先にやたらでかい、真ん中を階段で全部吹き抜けにしました、みたいな建物が見えてきて、あの無駄にでかい、無駄に吹き抜けている建物は一体なんだろうかと気になりながら、Googleマップに従って横山隆一記念まんが館に到着してみると、まさにその建物が横山隆一記念まんが館だった。僕は公民館のようなこじんまりした施設を想像していたので、想像とかけ離れた馬鹿でかさに度肝を抜かれた。

f:id:yoakenoandon:20220101143351j:plain
でかすぎひん?

今の人にはそれほどメジャーではない漫画家の記念館で、この施設の大きさはどう考えても採算が取れない気がするが…。そんなことを考えても仕方ないのでとりあえずまんが館前で写真を撮り、エレベーターで3階の施設入口に向かった。いやちょっと待て、今考えれば施設入口が3階というのもおかしい。じゃあ1階2階は何だったんだろう。もしかすると公民館のようなものと一体になっていた複合施設だったのかもしれない。その時はわけもわからずとりあえず3階まで登った。
3階はちょっとした漫画の図書館のようになっていて、女の子が一人、漫画を一生懸命読んでいた。受付に女性が一人いて案内を乞うと、4コマ漫画大賞の展示は5階で、無料で入れるようだった。5階に上がる前にどんな漫画があるのかと3階の蔵書をちらと眺めてみたが、結構アツい作品が並んでいた。手塚治虫のエッセイ集もあって、強烈に読みたかったがその日の目的はそこにはなかったのでおとなしくエレベーターに向かった。ほとんど人がいないようだったが、こんな無料で使える激アツ漫画喫茶のような施設を使わぬ法もあるまい。そういえばひろめ市場で出会った女性二人に横山隆一記念まんが館のことを言ってみたが二人とも横山隆一のことも、まんが館のことも知らないようだった。高知の人は案外誰も知らないのかもしれない。実にもったいないことだ。誰にも知られていない今なら無料で激アツ漫画が読み放題だ。僕が高知人なら全て読破するまで通い詰める。もしこの記事を読まれた高知の方がいるなら一度行ってみてはどうだろうか。

4階は常設で横山隆一の作品展示を行っていたようだが、そこは有料だし、僕は別に横山隆一には興味がないので5階に素直に上がった。5階でエレベーターを降りた先は細い通路になっていて、通路を抜けた先に無数の4コマ漫画の展示がなされてあった。その数実に500超。いやこんなに一次審査通ってたんかいとガッカリしたが、そのほとんどはジュニアの作品や近隣の小学校の作品群で、通路から右手の小区画に展示されている一般部門での一次審査通過作品の数は100ほどであった。

f:id:yoakenoandon:20220101144326j:plain
とてもきれいに展示されていた。

人はほとんどおらず、この馬鹿でかい施設を一体どうやって維持しているのかと心配になる程静かな中、順に作品を見ていった。一次審査通過作品は実に色々で、くだらないと思えるものもあればこれはというものあり、まさに玉石混淆であった。中にはこの人絶対プロじゃんと思えるものも(4コマまんが大賞の応募資格にプロ、アマの規定はない)。やっぱりそういう人は線が違っていて、原稿がとてもきれいだった。つまりプロの仕業でも受賞に至らないということで、僕は少し救われた気持ちになった。ところで僕の作品は一体いつ出てくるのだろう。小区画の角を一つ曲がり、二つ曲がり、三つ曲がっても出てこない。賞には最大三作品応募できたので三つ応募したが、きっと一次審査を通過したのは先日このブログで紹介した作品だろうと思っていた。今か今かとハラハラしながらついに最後四つ目の角を曲がったその瞬間、僕の作品が飛び込んできた。

f:id:yoakenoandon:20220101144129j:plain
え…?これなん……?

僕が応募した三作品の中で最も無いだろうなと思っていた作品がそこには展示されていた。予想を裏切る結果だったのでとても驚き、同時に笑った。無いと思いながらも気に入っていた作品だったから、改めて自分の作品を見てみてやっぱり面白いじゃんと思った。綺麗に縁取られた自分の作品と僕の名前を見つけた時はやっぱり嬉しくて、SNSでもたくさん作品を投稿しているが、それとは全然違う感覚だった。やっぱり生で見てもらえるってのは良いものだ。
やがて作品をゆっくり見てきた嫁さんも四つ目の角を曲がり、僕の作品を見つけた瞬間ビクッと体を震わせた。「この作品やったんやなあ…」と二人笑って喜びを分かち合った。嫁さんはオッシャーが選ばれたことはそれほど意外でもないという顔をしていた。案外嫁さんも好きな作品だったのかもしれない。お笑いも漫画も器も、僕より彼女の方が色んなものに対する目が利く。
僕らの後から少し人も入ってきて、もちろん僕の作品もその人たちの目に触れて、その時は恥ずかしいような、でもどう思ったのかちょっとたずねてみたいような気持ちになった。一次審査通過作品には横山隆一記念まんが館を訪れた人たちの投票による「ギャラリー賞」が設けられていて、僕たちも投票を行い、もちろん自分の作品に投票した。とんちもクソも無い作品だが、勢いだけは群を抜いていたと勝手に思っている。ギャラリー賞、もしかしてあるんじゃないか。取れたらまたここで報告しよう。


高知を出たのは結局14時ごろだった。ひろめ市場と横山隆一記念まんが館の他にはどこにも行かなかったが、ひろめ市場は桁外れのとんでもない場所だったし、春ちゃんとの最初の旅行になったし、自分の作品が展示されてる様子も見れたし、めちゃくちゃ思い出深い旅行になった。いつか春ちゃんが大きくなったら最初の旅行で僕の作品を見にきたのだと伝えたい。そうして再び高知を訪れて、嫁さんと春ちゃんとひろめ市場で朝10時から夜10時まで飲み続けるのだ。