ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

過去の自分からのエール

先日の日記で書いたように、1年以上にわたって僕を悩ませ続けたスタンプ作りに終止符が打たれた。

もともとスタンプ作りは余技で枝葉だったはずなのに、いつの間にか本芸の漫画は忘れ去られ、その枝葉にばかり囚われるようになってしまっていた。

新年改まったところで原点に戻って、スタンプの元の漫画本編を2年ぶりに描くことにした。

現在僕の手元にはiPad Proがあり、こいつを使って漫画を描くにはそれ用の知識がいるので新年から動画を見たり、クリスタ(お絵描きソフト)の公式ページを見て勉強していたのだが、なぜだろう、そんなに難しいことではないはずなのにやたら勉強するのがつらい。

おまけに見よう見まねでiPadで漫画を描いてみたところで、線がまるで違う。「こちらデジタルでござい!」と言わんばかりの線をしている。どれだけアナログに近づけたところで、デジタルの線はどこまでいってもデジタルなのだと気付かされた。

合わせて気付いたことには、描いていてもまるで楽しくない。もともと楽しいからお絵描きをしているはずなのに、iPadで描くと何かの作業をさせられている感じがすごくしてむしろつらい。自分が描いたという実感(手応え)がない。
無論慣れの部分も大きいだろうが、多分、iPadでのお絵描きの勉強がつらいのも、根底に「楽しくない」という気持ちがあるからだと思った。

こいつぁ困った。大金はたいてiPad Pro買ったのに、こんなに楽しくないんじゃあ描く気もしない。
さてどうすんべえ、と思案を巡らす中、そういえば漫画はどこまで描いたんだっけと思い当たって机をまさぐってみたところ、2年前の自分が描いたB4の原稿が大量に出てきた。

新しい仕事を去年4月からすることになって、引越しもあって、すっかり記憶の中から葬り去られた原稿群だった。

驚いたことには描いていた漫画の第一話40ページ分の下書きはすでに終わっていた。A4で最初描いていて、賞に応募するにはB4原稿でないといけないので描き直し始めたのは覚えていたが、最初の方だけしか描けていないと思っていた。まさか下書きを全ページ終えているとは思ってもみなかった。

ベタとトーンを終えているページも10ページほどあった(ただ、その10ページは話の途中のもので、絵柄的に古い、というかヘタクソなので、いずれ描き直す予定だったと思われる)。2年前なら長子はもう生まれていて、次子を嫁さんが身籠り、割と大変だった時期のはずなのだが、よくこれだけ描けたものだ。細切れの時間を見つけては必死こいて描いていたのだと思う。自分のやった仕事ながら、この原稿を見つけた時、心が震えた。

きっと、必死に原稿を描き続ける中気付いたのだろう。これは一人でできる仕事ではないと。特にベタとトーンは無限に時間が消費されるため、子育てをしながらではとても完成まで持っていけないと。

よくよく考えてみればそれで少しでも助けが欲しいと思ってiPadを買う決意をしたのだ。とすれば、漫画を全てiPadで描くのではなく、そのしんどいところだけiPadにやってもらえば良いのではなかろうか。何より、この原稿を見つけておいてそれを活かさぬのは過去の自分に対して申し訳ない気がした。

調べてみたところ、ある。線をアナログで描いた上でベタとトーンのみiPadでやる方法が確かにある。多少めんどくさいが、アナログで線を描いた上で、ベタとトーンという「作業」についてはiPadでできるなら、それがベストな形だと思われた。

過去の自分はここまで見通して下書きを全ページ終わらせていたのか。過去の原稿から「がんばれ」と、「諦めるな」と、「とにかく描け」と、そう言われたような気がした。

死ぬまで諦めねえぞ。