ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

『別れ』

「皆もうとっくに行ってしまった。君は行かないのかい?」
彼は聞いた。
「僕はいい。僕はずっとここにいることにするよ」
僕は答えた。
「どうして? 君ならきっと先に行ってしまった誰よりうまくやれるのに」
「それは誤解だ。僕はその誰より下らないことを知っている。だから君にはそう映るだけのことさ。万事は皆その調子だ」
彼は怒るでもなく、あざけるでもなく、ただただ寂しそうな顔をした。
「そうかい。じゃあ僕はそろそろ行くことにするよ。皆に遅れてしまっては申し訳がないからね。次はいつ会えるだろうか?」
「いつでも。君の会いたくなった時に。僕は君をここで待つよ。僕に会いたいなんて酔狂なのは君ぐらいのものだから」
「そうか。それなら安心して僕はもう行こう。友よ、また会おう」
彼は僕を抱擁して、振り向くことなく去って行った。

行くな! そう声をかければよかったのか。しかしそれはどのようにしても彼の心中には届くまい。

きっと死ぬまで彼と会うことはないだろうと思った。
彼はもはや、僕を見つけることはできないのだから。