かわいいにも色々種類はあるとは思うが、ここで僕の言うかわいいは、男性が女性を見て「ひゅー!あの子ゲロマブじゃね?」と言ってしまうような、そんな類のかわいさではなく、人間が犬や猫をかわいいと思うような、あるいは赤ちゃんをみて愛らしいと思うような、英語でいうとlovelyにあたるのだろうか、そういうかわいさである。
僕の住んでるところの近くには、小さな靴屋さんがあって、いつも背の曲がったおじいさんがちょこんとイスに座ってお客さんを待っている。今までお客さんが来てるところを見たことがあるのは一度しかない。動いているところを見たことがあるのもその一度だけだ。
それ以外はいつも同じ体勢でずっとじっとして、外を見ている。
そのおじいさんを見て、今日ふと、あのおじいさんかわいいな、と思った。
いや、今日思ったわけではない。ずっとかわいいと思ってたはずなんだが、それが今日明確に意識の上に現れた。
と同時に、ある疑問にぶち当たった。
なぜかわいいと思うんだろうか?
昨日観た映画「リメンバーミー」に出てくるおばあさんもかわいかった。
しかし老人なら無条件にかわいいと思うわけではない。
かわいくないと思う老人もいる。
ではその差は一体何なのか?
容姿ではない。いわゆる美の観点からあのおばあさんはベッピン、こっちのおばあさんはブサイク、そんな判断をしているわけではない。
ブサイクでもかわいいと思えるおばあさんはたくさんいる。
では何なのだろうかと思いをめぐらせてみて、ふとある思いつきに至った。
それはしゃべらないことなんじゃないだろうか?
例えば全く同じ姿形をした老人が二人いて、一方はベチャベチャしゃべりまくる、もう一方は全くしゃべらないしピクリとも動かない、そんな場合僕は無条件に後者をかわいいと思う。
考えてみれば犬もしゃべらない、猫もしゃべらない。赤ちゃんもしゃべらない。
「おいコラワレ、ワシの飯がエサ入れに入ってへんやんけ。ほんま仕事でけへんのオンドレは。だからデクの坊やて陰口叩かれるんや。オドレは気が回らんのや、気が。ちょっとオツムが足りてへんのやないか?さっさとせんかい。誰のおかげで毎日楽しい思いできてると思てんねや?ワシがペットやったってるからやろ?感謝してエサ入れるんやでぇ」
そんな猫がいたとしてかわいいと思うだろうか?
あるいは、
「さっさと乳よこさんかーい、このボケナスー!」
そんな風におっぱいを求めてくる赤ちゃんをかわいいと思うだろうか?
うーん、やっぱり人間が何かをかわいいと思う要素の一つには、しゃべらない、ということがあるのではないだろうか。
もしかして「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」の言葉の真意もそこにあるのか!?
考えてみればこの世の中でしゃべらない、ということはめちゃくちゃ難しいことなのかもしれないな。
今日はそんなことを、ふと考えた。
僕も将来うちの近くの靴屋さんのような、置物みたいなおじいさんになりたい。