ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

我が校のアイルトン・セナ(シャア・アズナブル)

僕が勤務する高校にS君という気になる生徒がいる。見た目は非常に真面目だ。メガネをかけ、シャツをズボンに入れ、ズボンも限界まで上げている。足首から10cm上の靴下が見えるほどだ。およそだらしないということを知らない。
クラスでは目立たない存在で息をひそめて生活している。誰も気づいていないが、多分メガネを外せばかなりきれいな顔をしている。まつげも長く、目鼻立ちも整っている。素直なまま成長して欲しいと思うがいつか化ける時がくるかもしれない。まるで『ピンポン』のスマイルみたいな生徒だ。
そういえば笑えばかわいい顔をしている。

僕の授業は席を自由にしているのだが、S君は最前列の教卓の目の前にいつも陣取る。世界史が好きなのかと思いきや、授業中はガンダムの機体を一生懸命描いている。なかなかうまい。僕がガンダムの話をしだすと途端に手を止め、目を輝かせて話を聞く。授業後にやってきて、どの機体が好きですか、などと質問してきたりもする。ニュータイプ専用機はあまり好きではない、というような話をした。

さらにアーマードコアが好きらしい。僕はプレステ3を持っていなかったのでラストレイブンまでしかやってない。今の高校生ならやっていてもアーマードコア4からだろうと思っていたが、どうもプレステ2のシリーズもプレイ済みのようだ。授業中アーマードコアの話になった時にS君が突然「遅かったじゃないか……」などとのたまい始めたため発覚した。
相当のフロム脳らしい。
近頃は暑くなってきたので熱暴走がどうのこうのと授業中に嬉しそうに叫んでいる。

それだけで十分面白いし、一緒にうまい酒が飲めそうなものだが、さらにその生徒の気になる点として、自転車をこぐのが強烈に速い。

僕の勤務する学校は山の近くにあるのどかな学校で、駅から離れているため自転車通学が多い。僕が駅からボチボチ歩いている横を、いつも立ちこぎのママチャリが爆速で駆け抜けていく。S君だ。
声をかけても見向きもしない。まるで声をかけられたくないから、それだけの速度を出しているのかと思ってしまうほどだ。登校中の誰よりも速い。ロードバイクでイキって登校する調子乗りより断然速い。連邦のモビルスーツなどまるで相手にしていないのだ。速すぎる。彼をとらえることは誰にも出来ない。

何故それだけの速度を出すのかとS君に聞いてみたところ、「立ちこぎが好きだから」という答えが返ってきた。

それ以来、のどかな田園風景の中を爆速のママチャリが通り過ぎても、ただ暖かく見守るだけにしている。

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あまりに速すぎたので、一日の記録帳に彼のことをメモした。なお、自転車は別に赤くない。