生徒「先生、その腕はどうなされたのですか?」
俺「これか、実は炎殺黒龍波の修行をしていてな」
生徒「エンサツコクリュウハって何ですか?」
俺「魔界から黒龍を召還するキケンな技よ。俺も昨日腕を食われかけてこうなった」
生徒「包帯の中どうなってるんですか?」
俺「それはダメだ。見せることは出来ない。この包帯でどうにか黒龍を封じている。包帯を解いたら最後、後戻りは出来ないからな。今も右手はうずいている」
生徒「そうですか……」
俺「うむ……」
生徒「…………」
俺「………………実は昨日、無人島でハゼという木にやられてだな」
昨日一昨日と無人島に仕事で行っていたが、その無人島にはハゼという木がたくさん自生している。割と街中にも生えてる木で秋には綺麗に紅葉する。またその実からは和蝋燭が作られる。
それがどうかしたのか、ということだが、実はハゼという木、ウルシである。かぶれる人はかぶれる、かぶれない人は触れても何してもかぶれない。
で、僕はかぶれる側の人間だった。
今までもその無人島で何度かハゼにやられていて、長袖長ズボンの完全防備でいってもかぶれるときはかぶれる。でもかぶれないときは半そで短パンでもかぶれない。このあたり実に不思議で、もはやかぶれるかどうかは時の運、というような状態になっている。つまり今回は運が悪かった。
それでもまだマシだと思えるのは今回のかぶれが足でなく手にきたことだ。僕のかぶれ方は、かぶれた部分がパンパンに腫れ上がってかゆいというよりはとても痛くなる。特に血液がたまる部分の痛みがひどい。足は人間の体の中で最も低い位置にあるため、かぶれが足にきた場合ゾウさんのように足首から先が腫れ上がり、歩行困難になるぐらい痛くなる。手は腕を下げなければまだましだ。腕を下にだらりと下げてしまうと、血液も下がってすごく痛くなる。このため、今日の授業は常に右手を上げて挙手したような状態で授業をした。
生徒からはおかしいからやめて下さいと言われたが、痛いものは痛いんだからやめられない。2時間の授業をそれで通した。
そして昨日一昨日と無人島に行っていたため、プリントに手を加える暇がなく、今日はまるで普通の世界史の授業みたいに、落書きの一切無い、極めてキレイでオーソドックスなプリントを配って授業をしようとした。今年度が始まってから初めてのことである。生徒からはすぐに反応があった。
生徒「先生、今日のプリントはいつも描いてくれている絵とか、面白いマメ知識みたいなのは無いんでしょうか?」
俺「あぁ、無人島行ってたから描く暇がな……でもこの方がスッキリ見やすくていいんじゃないか?近頃落書きいらない説が浮上してるんだが(俺の中で)」
生徒「先生いつもそんなこと言われますけど、誰か生徒がそんなこと言ったんですか?」
俺「いや、誰かに言われたとかそういうんじゃないんだけど……(俺が勝手にそう思ってる)」
生徒A「先生の落書き、僕は楽しみにしてるんですけど」
生徒B「自分もテスト勉強してるときに、ちょいちょい先生の落書き見て笑わせてもらいましたよ」
生徒C「実は結構皆ちゃんと落書き見てるんですから。落書き無いと寂しいです」
俺「お前ら……」
ばか共がよぉ!早くそれを言えよぉ!!
俺一人勝手に舞い上がって自己満足の一人芝居してんじゃねえかと、かなり深く思い悩んじゃったじゃないか!
描くよ!そういうことなら落書き喜んで描かせていただくよぉ!
そういうわけで今日は大変嬉しいことのあった一日だった。自分の一生懸命やったことを認めてくれる人のいることは、とても幸せなことだ。この2ヶ月、手探りでやってきたことは無駄ではなかったんだ。
ていうか今の高校生は炎殺黒龍波知らねんだな。