ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

火の起こし方

タイトルの通りである。炎上という意味ではなくそのまま、タイトル通りである。

僕は高校の非常勤講師であるが、時に無人島に行ったり海外まで青少年交流のキャンプに行ったりする。その際必ず行うのが火起こしだ。
キャンプの時だけではない、時折歴史の授業にかこつけて学校でも火起こしをする。

近頃はオール電化やら何やらで火を見ることなしに成長する子どもがいるらしく、初めて見る火を危険なものだとは思わず大火傷する事例なんかもあると聞く。

嘘みたいなホントの話だ。時代は変わった。

すなわち現代日本において火起こしなどというスキルは全く無用のものとなった。完全な死にスキルである。

が、ここではその死にスキルを堂々と紹介していこうと思う。火起こしは現代では使わないとはいえ、やってみるとなかなか難しくも面白いし、火が実際に起こったときの感動は不思議なものがある。
生きていく上で何かとても大事なものを手に入れた気になるのだ。


以下に火の起こし方の簡単な説明書を載せる。

実際、ブロリーみたいにならないと火は起きない

多くの人が勘違いしているが、火種と火口は別のモノだ。木と木をいくらこすりあわせても、煙は出るがそこから炎は出ない。それが分からず、ずっと木を回転させ続ける人がいるが、正しく無駄だ。
それから、火種が出来ていないのに火口(燃えやすいもの)を木と木の摩擦している部分に押し当ててフーフーと息を吹きかける人もいるがそれも無駄だ。無駄どころか逆に火種が出来るのを阻害してしまっている。

そもそも木と木をこすりあわせることの意味は何なんだろう?摩擦により温度を上げることはもちろんその第一義であるが、それだけではない。重要なのは木と木の摩擦により、削れた木の粉を出すことだ。

木の粉?何言ってんだコイツは?と思われるかもしれないが、この木の粉が火種(火の赤ちゃん)に変わるのである。すなわち、木と木の摩擦による火起こしでは、木の粉を集めることができなければ何かしら神の奇跡が起こらない限り火が起きることはない。

火起こしで使用する板に三角形の穴があいているのは削れた木の粉を集めるためだ。実際やってみると分かるが、板のど真ん中にくぼみを作ってとがった木を差し込みグルグル回転させても木の粉は周りに飛び散るばかりで一向集まってはくれない。
木の粉を一点に集め、その木の粉の温度を高めることにより木の粉が火種に変化するのである。火種に変化した木の粉は炎は出していないが発火している状態である。タバコに火をつけた状態、と言えば分かりやすいであろうか。この火種はしばらくの間ほったらかしておいても消えない。

一生懸命に木と木をこすりあわせる目的は何かと言えば、この火種を作ることなのである。この部分を勘違いしている人のなんと多いことか。
であるから、先ほど言ったとおり火種も出来てないうちから火口を回転する部分に押し当てても無駄なのである。木の粉が集まるのをただただ邪魔しているだけになってしまう。つまりそのやり方だといつまで経っても火種は出来ない。

木の粉が火種に変化したかどうかの判断は、その色を見て行う。茶色い木の粉が真っ黒になり、木の回転を止めてもその木の粉から煙が出続けているならば火種は完成している。次の段階に移ろう。

火種ができたなら次に火口(ほくち)を用意する。火口とは燃えやすいもののことだ。麻縄をほぐしたり、新聞紙を使うこともあるが、僕がこの世の中で最も信頼している火口はシュロという木の皮だ。火種までいったならシュロの皮ならほぼ100%炎を出すとこまでやってくれる。シュロは火の神プロメテウスが与えてくれた木かもしれないと僕は思っている。

話がそれた。火種ができたなら火種を火口で包み込む。あとはそれをフーフー吹いたり、パタパタ扇いだり、グルグル振り回して空気を送り込めば炎が出る、という算段になる。

以上が火の起こし方だ。どうだろう、意外に勘違いしていることも多かったのではないだろうか。

整理するに、火起こしにおいて一番大事なのは木と木の摩擦により削れた木の粉だということだ。であるから木の粉が板の三角形の部分にある程度たまるまでは焦らずゆっくり木を回転させればいい。木の粉がたまり、煙が濃い白色になってきたらスピードを上げよう。木の粉を火種に変化させるには相当のパワーが必要だ。上から押さえつける力と木を回転させる力は強いほどいい。力とスピードが木の粉を火種に変える。
はっきり言ってしまえば煙を出すところまでは誰でも出来るのである。しかしそこからはある程度のコツを理解していないと火種を作ることは出来ない。「知っている」と「できる」には大きな隔たりがある。煙が出てからが本当の勝負だ。

長々と文字で説明したが、ここまで説明しておいて、絵でもっとわかりやすく説明した方が良かったな、と思った。
いつかリライト、というか絵だけで火起こしを説明したものを作りたい。

先に紹介した火起こしのやり方の絵は綱引きの方式になっていて、皆で火起こしできるところがいいところだ。
2×4を1本、適当な木の棒、木の板、木の板の下敷き(ダンボールなど)、ロープがあれば誰でもできる。興味ある人はお試しあれ。
なお木の棒と木の板は、棒が硬く、板は柔らか方がいい。その方が板が削れて木の粉が出やすいからだ。硬く男性的な木の棒で、柔らかく女性的な木の板の穴をグリグリして、それでもって火の赤ちゃん(火種)を作り出す、というのはなんとも神秘的な気がする。