ソーリーベイベー

一非常勤講師の覚え書きです。天津飯をこよなく愛しています。不定期更新です。

世界史紙芝居『ミノタウロス』

以前の日記で、授業プリントの紹介をやめようと思う、と言ってから、それでも授業でやったことを載せたい場合にはどうすればよいのかについて、ここのところ頭をひねらせたり、手を動かしたりしながら考えていた。その結果、なんとなく紙芝居のようなものが出来上がったので公開してみようと思う。

今回は1学期、2年生の授業でやった範囲から、ギリシア時代の神話『ミノタウロス伝説』について。昨今の高校生の脳みそを完全にコントロールしていると言っても過言ではない諸々のスマホゲーのおかげもあってか、神話に対する高校生のくいつきは大変良い。そもそもギリシア神話そのものがめちゃくちゃ面白い。ギリシア神話に興味があるけど全く何も知らないという方は、阿刀田高さん著『私のギリシア神話』を読んでみて欲しい。この本は神ごとに話がまとめられていて、またエッセイ風に書かれているので大変とっつきやすく、挿絵もオールカラーで入っていて、見るだけで楽しくなってくる本となっている。僕も大好きな本だ。
なお、神話の関係上、今回は下世話な話も随分入っているが許されたい。だって主神のゼウスが超絶プレイボーイなんだもの。しょうがない。

話の舞台は地中海にに浮かぶ島「クレタ島」。紀元前ウン千年の歴史を持つ島であり、ここで見つかった文字である線文字Bはヴェントリスにより解読され、ギリシア語を表すことが分かっているが、クレタ文明時代の絵文字、線文字Aはまだ解読されていない。クレタ文明はまだ謎の多い文明だということだ。将来もしこの2つの文字が解読されたなら大変な騒ぎになるだろう。島の中央にはクノッソス宮殿の遺跡が残っている。

f:id:yoakenoandon:20180721004454j:plain

フェニキアの王女エウロペが牛に化けたゼウスに拉致され、海を渡って連れてこられたのもこのクレタ島。ここでエウロペとゼウスは交わった。そしてクレタ島のミノス王が生まれる。ゼウスは大体において化ける、そしてすぐ交わる。交わり癖がすごい。なおエウロペはヨーロッパの語源となっている。

ミノタウロス伝説はこのクレタのミノス王とポセイドンとの契約から始まる。
クレタ島の王ミノスは、王位継承の証として海の神ポセイドンに一頭の雄牛を求め、その雄牛をまたポセイドンに生け贄として捧げることを誓った。

f:id:yoakenoandon:20180721004232j:plain

 が、送られてきた白い雄牛があまりに美しすぎたためにミノス王は心変わりし、別のみすぼらしい牛を生け贄として捧げた。ワンチャンそれで通せると思ったのだろうか。
相手は神だ。当然のごとくバレた。

f:id:yoakenoandon:20180721004257j:plain

カンカンに怒ったポセイドンは呪いをかけることを決意。ここで問題は、その呪いの対象がミノス王ではなかったことだ。なんとポセイドンはミノス王の妃、パーシパエに呪いをかけてしまった。呪いの内容は「牛以外愛せなくなる」
えぐい、さすが海神えぐい。呪いの内容が外道、かつ身内を攻めるやり口は完全に極道のそれ。

その日からパーシパエは悶々として、日がな一日中ポセイドンから送られたその美しい雄牛を眺め回した。

f:id:yoakenoandon:20180721004342j:plain

ミノス王のことなどもう見向きもしない。このフツフツと沸き上がってくる感情をどうすればよいのか。悶々に次ぐ悶々に次ぐ悶々。身悶えしながら転げ回る日々が続いたある日、ついにパーシパエは決意する。

クレタ島の名工ダイダロスに雌牛の精巧な模型(原寸大)を作るよう依頼を出したのだ。

f:id:yoakenoandon:20180721004356j:plain

ダイダロスはイカロスのおやっさんで、太陽に超接近できるぐらいの人工の羽を作れるスゴ腕なので、牛の模型を作るなどお茶の子さいさい。気合い一発、どこからどう見てもべっぴんの雌牛にしか見えない模型を作り上げた。

その出来栄えに満足したパーシパエは、早速その模型の中に入り雄牛に近づいた。そしてついに超えてはいけない一線を超えてしまう。
すなわち獣姦に次ぐ獣姦に次ぐ獣姦。さらにあろうことかその雄牛の子を身ごもってしまった。

f:id:yoakenoandon:20180721004412j:plain

こうして生まれたのが頭が牛で体が人間のミノタウロスだった。自らの容姿に絶望したのか、長ずるにつれ自暴自棄に、そして乱暴になっていくミノタウロスにミノス王も手が着けられず、迷宮を作りそこにミノタウロスを閉じ込めることにした。
まあ、しかし、よくそこまで育てようと思ったものだ。ミノス王にも、己の吝嗇のせいでこんなバケモノが生まれてしまったという負い目があったのだろうか。

その迷宮作りを任されたのがやっぱり名工ダイダロス。「また俺かーい」とは言わず彼は仕事を引き受けた。一連の出来事の最大の被害者は彼かもしれない。
いや、そうでもないか。彼も事件に加担していると言えばしている。彼の作った模型が精巧でなければ、こんな乱痴気騒ぎにはなってなかったかも。
「ぐっ、牛の模型作りに気合いを入れ過ぎたか。目的さえ先に知っておけば……」
ダイダロスにもそんな負い目があったのかなかったのか。しかしまたもや気合いを入れて、絶対に出てこられない迷宮「ラビュリントス」を作り上げた。つまり懲りない、奴は懲りない。多分牛の模型の目的を知ってても、「職人根性がー」とか言いながらすんごい模型を作ってしまう。そういう人間だ。こうしてミノタウロスはラビュリントスに閉じ込められることとなった。
このラビュリントスがきっかけとなってダイダロスとミノス王は衝突し、ダイダロスは他国へ逐電する。その途中でイカロスが墜落する。
が、この話の続きはまた今度、機会があればにしよう。

f:id:yoakenoandon:20180721004434j:plain

なお両刃の斧をラブリュスというが、この「ラブリュス」と迷宮「ラビュリントス」は関係があるらしい。もしかするとミノタウロスと共にラブリュスも迷宮に封じ込められたのかもしれない。
そして現在もクレタ島に残るクノッソス宮殿の遺跡。その部屋の数はまるで迷宮のように数百もしくは千以上あったと言われる。もしかして、この神話マジなの?
いつもそう思わせてくれるところが僕は好きだ。

最後に僕の愛するwikipediaにこんな一節があった。
「古代のクレタ島では実際に人間と牛が交わる儀式があったとされる」

え、この神話マジなの?